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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)96号 判決

(争いのない事実)

一 原告請求原因一および二記載の、特許庁における手続経過および本件審決の内容に関する事実は当事者間に争いがない。

(要旨認定について)

二 原告は本件審決が本願実用新案の要旨認定を誤つている旨主張するが、原告が特許庁に出願書類およびその訂正書として提出したものであることが、その方式趣旨ならびに弁論の全趣旨から明らかな乙第二号証(実用新案登録願添附の説明書)同第三号証(昭和三二年九月一二日付訂正書)同第四号証(昭和三三年七月二三日付訂正書)同第五号証(同年七月二七日付訂正書)同第六号証(同年八月二一日付訂正書)同第七号証(同年八月二八日付訂正書)および同第一号証(当初の特許願書)中添附図面、同じく原告が抗告審判手続において提出した抗告審判請求書、その訂正書および意見書であることが明らかな乙第一一ないし第一四号証および同第一八号証の各記載を総合すれば、本願実用新案の要旨は、本件審決において認定しているとおり、「上下左右面にそれぞれモルタルまたはコンクリート充填用の凹溝を設けるとともに、上下面の凹溝間を貫通して中央部のモルタルまたはコンクリート充填孔(2)と排気孔(3)を設けた充填壁造り用ブロツクにおいて、前記各凹溝の相会する隅部および前記孔(2)の貫通口縁をそれぞれ厚さの中央の縦断面における切欠線が直線をなすように切欠してなる構造」(別紙(一)の図面参照)にあり、右審決の認定したところによつて正確に表現されていると認めるに十分であり、原告が要旨認定の誤りとして主張する(1)(2)(3)の各点は、いずれも次に述べる理由によつて採用できない。

(一) 審決も「上下左右面にそれぞれモルタルまたはコンクリート充填用の凹溝を設けるとともに凹溝間を貫通して中央部のモルタルまたはコンクリート充填孔と排気孔を設けた充填壁造り用ブロツク」は本件実用新案の登録出願前すでに公知であるとして第一および第二の公知例を示しているのである。したがつて、右「充填壁造り用ブロツク」を「公知ブロツク」とし、請求範囲の末尾を「……充填用壁造り用積面の構造」とするのと、その趣旨においてなんら変りはない。

次に、モルタル類充填用の凹溝の相会する隅部および充填孔(2)の貫通口縁をそれぞれ厚さの中央の断面における「切欠線が直線状をなすように切欠」するということが、相連接するブロツクの凹溝の切欠線を総体として八角形とするように切欠する趣旨であることは、前記乙第一ないし第七号証の図面および説明書ならびにその訂正書からみて明らかであり、審決もまたそのように解すべきものとして「……切欠線が直線をなすように切欠してなる構造」と認定しているものであることは、真正に成立したものと認める乙第一九号証(審決書)の全体の趣旨に徴してこれを認めるに十分である。

したがつて、原告主張の(1)および(3)の点については、原告主張のように訂正して認定しなければ本願実用新案の要旨認定を誤つたことになるというのはあたらない。

(二) さらに、原告は本願実用新案における孔(3)(排気孔)にもモルタルまたはコンクリート充填用の凹溝の相会する隅部および充填孔(2)と同様の切欠部を設けることが本願実用新案の要旨の一部をなす旨主張する。

しかしながら、前記乙第二ないし第七号証・同第一一ないし第一四号証によれば、本願の説明書およびその訂正書の登録請求の範囲の項はもちろん、実用新案の性質・作用および効果の要領の項にも、排気孔(空隙)(3)の口縁に切欠部を設けることおよびその作用効果については何も記載されていないことは明らかであるから、右の点が本願実用新案の必須構成要件の一つをなすものと認めることはできない。

なお、原告は、本訴において、排気孔(2)にも凹溝の相会する隅部および充填孔(2)と同様の切欠部を設ける趣旨に登録請求の範囲を訂正するとも主張しているけれども、説明書または図面の訂正は抗告審決の審理終結の通知がなされるまでに行なわなければその効力を認めることができないものであることは、旧実用新案法および同法施行規則の規定(ことにこれらに準用されている旧特許法第一〇五条第三第四項旧特許法施行規則第一一条第二項)の趣旨に徴して明らかである。したがつて、本訴において本願実用新案の説明書における登録請求の範囲の記載を適法に訂正しうることを前提とする原告の前記主張は採用できない。

(公知例との対比)

三 そこで、本願実用新案を本件審決の挙げる二つの公知例をもつて、拒絶するのが相当かどうかについて判断する。先ず、本願実用新案の技術内容についてみるに、前掲各証拠の記載によつて、その登録請求の範囲としたところを、説明書および図面の記載からみると、本願実用新案のねらいとするところは、原告も主張するとおり、在来のブロツク壁の築造方法は、手作業によつて、旧来の煉瓦積みの施行方法を応用して、横繋体造りと縦繋体造りとを二段階に区分して作業していたとし、この作業方法によつては、縦横の繋体部分に凹凸あるいは空隙を生じ壁が虚弱化するという欠点があるから、これを機械化し(すなわち、いわゆるトコロテン突きのやり方で)縦の充填道からモルタル類を圧入して縦横繋体を一挙に押し出して造り凹凸部分または空隙を生ぜしめない充填施行の方法を可能ならしめ、強固なブロツク壁の築造を可能にしようというにあることが認められ、この目的のための具体的な構造として、本件審決において本願実用新案の要旨として認定したとおりの構造を考案したというにあることが認められる。

他方、本件審決の挙げる二つの公知例についてみるに、その方式趣旨から特許庁が実用新案出願公告の用に供した公報であることの明らかな乙第一六、第一七号証の各記載によると、この二つの公知例はいずれも上下左右面にそれぞれモルタル充填用の凹溝を設けた充填壁作り用ブロツクの構造に関するものであつて、第一公知例(乙第一六号証)は、別紙(二)の図面に示すとおり、上下面の凹溝間を貫通して中央部のモルタル充填孔および空気抜穴孔を設けたものであり、第二公知例(乙第一七号証)は、別紙(三)に示すとおり前記凹溝の相会する隅部を切欠したものであることが認められる。

原告は、第一公知例が横繋体造りと縦繋体造りを二段階に分けて行なう施工方法をとるものであると主張するけれども、第一公知例の図面および説明書の記載特に実用新案の性質、作用および効果の要領の項の「積合セ『モルタル』ハ其注入中空気抜穴ニ依リ内部ニ空隙ヲ生ズルコトナク」との記載によれば、第一公知例のブロツクも横に隣接する両ブロツクの縦の凹溝によつて形成される空洞および貫通穴からモルタルを注入し、これによつて上下に隣接する両ブロツクの横の凹溝によつて形成される空洞にも右モルタルを充填するものであると解すべきである(モルタルを注入するというのは縦の充填道から注入する趣旨であることは明らかであり、その注入中に、ブロツクを上下に貫通する空気抜穴によつて空気を排出するのであるから、前記のように解するのが自然であり、これに反する原告の見解は採用しがたい)。第一公知例にあつては、右縦横凹溝の相会する隅角部および貫通穴の口縁部に切欠がないので、この箇所に切欠部を設けた本願実用新案のブロツクに比し、モルタルの充填作業が円滑に行なわれないという欠点の存することはわかるけれども、そのことから逆に第一公知例のブロツクが本願実用新案と作業方式を全く異にするものというのはあたらない。

原告は、本願実用新案における排気孔(3)は第一公知例の貫通穴(3)に相当し、縦の両凹溝によつて形成される空洞とほとんど同じ大きさの口径を有するものであると主張する。しかし、第一公知例の貫通穴(3)(モルタルの充填孔として用いられる)に相当するものは本願実用新案ではモルタル等の充填孔(2)であることは、本願実用新案と第一公知例の図面および説明書を対照すれば明らかである。また、本願実用新案の排気孔の口径の大きさについて登録請求の範囲においてなんらの限定もなされていないことも本願の説明書およびその訂正書の記載によつて明らかである。もつとも、本願の説明書中「実用新案の説明」の項において、本願のブロツクを用いて壁を築造する施行方法を説明するにあたり、縦の空洞および充填孔からモルタル類の流動体を圧入すれば、そのモルタル類は横の空洞に充満し、孔(空隙)(3)の底部より上方へ湧出しはじめるので、直ちに繋体造り作業が終了したことを知ることができ、そこで孔(3)の口の上を公知の蓋(4)で閉塞する旨記載してあることが認められる。したがつて排気孔(3)はごく細い孔ではなく、その口径はある程度の大きさをもつたものであることを望ましい実施態様として予定しているものと考えられる。そしてまた、排気孔(3)の口径はある程度大きい方が、ブロツクの材料の点その他からみて有利であることも原告主張のとおりである。けれども、右排気孔(3)の口径の大きさについては、本願実用新案の登録請求の範囲においてなんら限定するところがなく、また、排気孔(3)を設けてその底部にモルタル類が若干湧出する程度にモルタル類を圧入するのは、繋体に空隙ないしは凹凸を生ぜしめない(繋体のへこんだ部分は空隙となるから、結局空隙を生ぜしめないといつても同じことに帰する)ようにするためであるが、第一公知例の空気抜穴(9)を同様に繋体に空隙を生ずるのを防ぐことを目的とするものであることは明らかであり、モルタル類の湧出状態を認識するのに排気孔(3)の口径がある程度の大きさをもつている方が便宜であるという点は、第一公知例の空気抜穴(9)についても、特にその口径の大きさを限定しているわけではなく、それをどの程度の大きさにするかは当業者が必要に応じて適宜選択できることがらにすぎない。乙第一六号証の図面には口径の小さい空気抜穴が示されていることが認められるけれども、必ずしもそのような細い孔にすべきものとはかぎらないのである。なお、乙第一六号証には、空気抜穴をブロツクの中央部でなく両側端に近い箇所に設けたものが図示されているけれども、この孔を設ける位置は、これを設ける目的に反しない範囲で適宜選択しうるものであることもまた当然である。

してみれば、本願実用新案の要旨と認められる事項についてみれば、凹溝の相会する隅部およびモルタル類の充填孔の口縁に切欠部を設けた点を除き、その他は第一公知例に示されているものと認めるべきであり、右切欠部以外の点について原告が相違点として挙げている点は、当業者が必要に応じ適宜選択して実施しうる事項の範囲を出ないものといわねばならない。そこで、さらに本願実用新案における縦横凹溝の相会する隅部およびモルタル類の充填孔(2)の口縁に設けた切欠部と第二公知例における縦横繋体の相会する箇所に設けた切欠部とを対比するに、乙第一七号証によれば、第二公知例では、原告主張のように、ブロツク体の長方形の底側とこれより面積のやや小さい上側とのそれぞれの周面に弧状にくぼんだ縁溝を設け、縁溝と縁溝の中間部をも弧状にくぼませて目地溝とし、その各稜を弧状に切欠して木の葉状部を形成し、モルタルを目地内に注入した場合に横繋体と縦繋体とが相会する隅部が逆さ擬宝珠形をなすようにしたものであることが認められる。

これに対し、本願実用新案にあつては、各凹溝の相会する隅部および充填孔(2)の貫通口縁をそれぞれ厚さの中央の縦断面における切欠線が直線をなすように(総体が八角形をなすように)切欠したものであること前認定のとおりであるから、切欠部の形状に若干の差異があるものということができる。そして、原告は、第二公知例の木の葉状切欠部は、横と縦の繋体造りを二段階に分けて施工する旧来法によることを前提とし、もつぱら縦横繋体の交差部(隅部)を強化することのみを目的とするものである旨主張している。

しかしながら、前記乙第一七号証の公報の記載特に実用新案の性質、作用および効果の要領の項の「『モルタル』又ハ『セメント』(11)ヲ目地内ニ注入セバ木ノ葉状部(8)ハ相連接スル四個ノ『ブロツク』ノ木ノ葉状部(8)ト組合セテ逆サ擬宝珠形トナリ極メテ強固ナル施工トナルノミナラズ、木ノ葉状部(8)ハ連接スル目地溝(7)内ニ廻ル『モルタル』ノ流入ヲ良好ナラシメ……」なる記載によれば、第二公知例のブロツクも、縦の二つの目地溝によつて形成される空洞からモルタルを注入して、これを横の目地溝にも充満せしめて縦横の繋体造りをするものであると解せられ、前記切欠部を木の葉状とし凹曲せしめるようにしたのは、縦横目地溝の相会する隅部を逆さ擬宝珠形とすることによつてこの部分を強化すると同時に、木の葉状切欠部によつてモルタルが縦の目地溝による空洞から横の目地溝による空洞へ流入しやすくするようにしたものであることを認めることができる。

したがつて、第二公知例の切欠部と本願実用新案のそれとは、これを設けた目的・効果において共通するところがあり、ただ第二公知例の切欠部のように凹曲せしめるよりも、本願実用新案のように切欠線を直線(平ら)とし、総体を八角形にした方が、モルタルの横の目地溝によつて形成される空洞への流入をいつそう円滑にするものということはできるのであるが、右のような目的のため切欠部を設ける場合に、切欠部を凹曲せしめるよりも直線状にする方がモルタルの横空洞への流入を容易にする効果の点でまさるというようなことは、当業者ならばきわめて容易に考えつく程度のことにすぎないといえる。第二公知例では、本願実用新案におけるモルタル類の充填孔に相当するものがなく、したがつて、もちろん充填孔口縁の切欠部をそなえてはいないけれども、本願実用新案のように充填孔を設ける場合に、その口縁部にも前記のものと同様の八角形の切欠部を設けて横の目地溝による空洞へのモルタルの流入を容易にすることは、これまた第二公知例が存する以上当業者の容易に推考しうるところといわねばならない。

以上のとおりで、本願実用新案と第一・第二の公知例を対比すれば、これらはいずれも縦の目地溝によつて形成される空洞あるいはこれとともに貫通穴(充填孔)からモルタル類を注入して横の目地溝によつて形成される空洞に充満せしめ縦横繋体造りを一挙に行ないうるようにしたものであり(原告は、本願実用新案の作用効果として、ブロツクにモルタル類を充填して壁造りをする施工法を機械化することを可能ならしめたという点を強調しているけれども、そのいうところの機械化とは、原告の主張によれば、要するに縦の充填道からトコロテン突きのやり方 でモルタル類を圧入し、これによつて縦横の繋体造りを一挙に行なうということに帰着するものと認められるが、そのことが第一および第二公知例のような構造では不可能であつたのを本願実用新案によつてはじめて可能とされたということができないことは、前記認定事実に徴して明らかである)、第一・第二の公知例にそれぞれ前記認定のような事項が示されている以上、本願実用新案は、これに若干の変更を加えて組み合せたものにほかならず、その変更を加えた点も当業者が必要に応じ適宜なしうるいわゆる設計変更の範囲を出るものではなく、全体として各公知例の前記のような構造を単に組み合せた以上に特に顕著な―登録に値するような―効果を奏するものとも認められないのであつて、結局本願実用新案は前記各公知例から当業者が容易になしうる程度のものと認めるのが相当である。

なお、原告は本件審決が例示した昭和二六年実用新案出願公告第九、九三五号公報を援用し、右公報に記載された技術が実用新案として登録されるならば、本願実用新案も登録されて然るべき旨主張するが、出願時を異にする右公報の記載をもつて本願実用新案の登録されるべきものとする根拠というには充分ではない。そして審決が右公報を例示した趣旨は、本願実用新案では縦横の充填道がほぼ円形に形成されることになり、したがつて縦横の繋体を同一形状に造ることができるという抗告審判請求人(原告)の主張に対し、そのような作用効果を得るためには、ブロツクの上下左右面に設ける凹溝を同形同大の半円形に形成するとともに、充填孔(2)をも右凹溝によつて形成される目地孔(空洞)と同形同大に形成する必要があるわけであるが、その点は本願実用新案の要旨中には含まれない事項であるばかりでなく、よしんばその点も本願実用新案の要旨中に含まれるものと解してみても、そのようなことは本願実用新案の出願前すでに公知のことがらであるとして、その一例として前記公報を示したものにほかならないことは、当事者間に争いのない審決理由の記載によつて明らかである。そして、前記乙第二号証等本願実用新案の説明書およびその訂正書の記載全体の趣旨からみても、前記凹溝および充填孔を前記のように同形同大にすることが本願実用新案の要旨に含まれるものとは認められず(本訴における原告の主張も、右の点が本願実用新案の必須構成要件の一つをなすとまでいつている趣旨とは解されえない)、しかも真正に成立したものと認める乙第二〇号証によれば、審決の挙示した前記公報には審決の説示に照応する記載のあることが認められるのであつて、審決の前記説示は是認しうるところである。

(むすび)

四 以上説示のとおり、本件審決には原告主張のような違法の点はなく、原告の請求はその理由がないので、これを棄却することとする。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一) 本願実用新案の図面

<省略>

<省略>

別紙(二) 第一公知例の図面

<省略>

別紙(三) 第二公知例の図面

<省略>

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